ENo.3339 刃皇耶　竜斗

唐突に、それは来た。
それは、エスタの宿屋でのこと。
寝るために各部屋に分かれた直後だった。

|━┏）っ【曙光ノ如ｼ】

竜斗「……おい」

|）ミ

竜斗「……おい！！」

急に、毒電波が飛んできた。
いや、ダメージは特に受けていないが。
だが猛毒電波である。
何であいつが居るんだよ！
おかしいだろこら！

というか、電波でやり取りするのって懐かしいな。
最近そう言うの飛ばさなくなったし。
電波、ってより念話の方が正しいか。
エミーさとは良くしてるが、今は主にあの子だけだなぁ。
それが突然懐かしい犬耳から飛んできたのだ。
分かりやすいネタ付きで。

『おいこら、何でお前がこっちいるんだよ』

『早くユクモに帰ってクエスト終わらせて来い』

って、そうか。
時系列的にまだ港だ。
温泉地は多分後だから。

『じゃねぇ、英雄になって来いよ！遊んでねぇでとっとと！』

竜斗「はぁ……」

送られてきた座標へと、こっちも念話を送り返す。
なんか、変に膜がかかったような不思議な感じだったけど場所が遠いのだろうか。
んなことよりも

竜斗「あっちにいたから、もうこっち側では会わないかなと思ってたんだけどねぇ」

そんなことは全くなかった。
ベットで横になりつつ、窓の外を見る。
月が綺麗な夜だ。

竜斗「まぁ、考えても仕方ない」

そう呟いて、目を閉じる。
明日も忙しい、早く寝ないと。
身体が浮くようなそんな感覚。
すぐに眠りへと落ちるのが分かる。

――ザッパァ！！

「っぷぁ！？」

行き成り、全身が水に突っ込んだ。
おい！？何がどうなってる！？
洪水でも起こって宿が流されたのか！？

「おぉ、最近見ないと思ったら……そんなところでどうした」
「って、村長！？」

周囲を見渡す。
……木で出来た橋の様な部分が多すぎて全然見えない。

「よっと」

桟橋から這い上がる。
薄着な人々、褐色な肌。
あー、ここはやっぱり。

「モガ……」
「どうしたどうした、眠気覚ましの水泳かね」
「いえ、なんというか……」

上手く説明が出来ない。

「まぁ、そんなモンです」
「そうか。うむ、まぁよい。お前さんのお陰でワシらも今こうしてのんびり出来る、お前さんものんびりしたらええ」
「は、はぁ……」

濡れた頭をかいて応える。
またこっち来たか……。

「あ、丁度いいところに！」

奥のカウンターのような場所、受付嬢が身を乗り出して手を振ってきた。

「今ですね、丁度火山の」
「アイシャ、水没林はどうなってる？」
「えっと、水没林はズザザーって感じで……って何言わせんですか」
「ハハハ、わりぃ。とりあえず港の方行って来る」
「ちょ、ちょっとー！？」

あの娘に捕まると長いからな。
面白いからいいんだけど。
それにどうせ、火山の状態はドカンドカーン！で終わりだ。
……村で請けられるクエストも今はあまりないし。

「……どこ行ってもやることあまり変わんねぇなぁ」

そう言って自分に苦笑しながら、港行きの船に乗り込んだ。

「……ヤッパリ重いな」

港につくと、キャンプにあるボックスから装備類を取り出した。
この世界はヤッパリ魔力みたいな類の力はない。
だからその補助が受けられないので全部膂力で武器を振らなければならない。
もちろん防具もだ。
その重量に辟易しつつ酒場まで来る。

「あ！」
「あら、来たの？」

受付二人に声をかけられたので手を上げておく。
なんか、この顔を見るのも久しぶりだ。

「とりあえず、飯食ってくる」

そう言って、脇に併設されてる食事カウンターを指差す。
そこでは高級食材を使った料理を食べることが出来るのだ。
料理を作っているのは

「いらっしゃいませだニャ！」

ネコ型の獣人だ。
と言うかもう猫だよ、猫。
その猫に上を指差すと頷かれたのでそっちに向かう。
お一人様は大抵カウンター食べることになる。
が、空いてるなら別に大きなテーブルを使っても構わない。
そのテーブルからの景色は港が一望できて絶景なのだ。
階段を登りテーブルにつくとそこに

|━┏）ノシ

ズルッ

素でずっこけた。

「な、ん、でお前がここに居るんだこのクソ犬！！」
「い、いたた！？今犬耳ないじゃん！？」

グギギギ！とお互いの顔を引っ張り合う。
Duneはこっちの世界だと犬耳がない。
元々、魔系だったからこっちで会った時は大丈夫かこいつ、とも思ったが。
元々が体格系スペラーだったから何も問題はなかった。
まぁ、片手剣使うのが精々みたいだけど。

「……で、どういうことだってばよ」
「んー、よくわかんないが。まぁそう言うことだ」

食事を取りながら聞く。
が、なんかわけのわかんない答えが返ってきたのでもう面倒だからいいやってことにしておく。
しかもキリッとした顔で応えるのがさらにムカつく。
こいつ分かってやってるだろ。
あー、龍頭のフライと黄金芋酒うめぇ。

「で、私コレ使いたいんだけどどっか行かない？」
「あん？ああ」

焔の刀身をした片手剣が目に入る。
しかも淡く光を放ちそれが明滅を繰り返す、火属性の強力な武器だ。
其ノ刃ハ曙光ノ如シ――
コレが名前である。
まさに曙光の如し！！

「んー、ジンオウガ原種」
「……私コレ使いたいって言ったよね？」
「天玉欲しいからジンオウガ原種」
「だから火属性じゃ」
「別に対して変わらないから平気平気、そのままで行けばええやん」
「…………」

あれ、なんか凄い蔑まれた。

「さて、んじゃ行くか」
「はぁ、リュポンヌの所為で死んだら高級汚職事件で奢りだからね」
「最悪なイントネーションだな。おーい、キャシー」
「はーい！」

フンフンと目の前の書物を熟読していた受付嬢に声をかけると元気な返事が返ってくる。
村の受付嬢と違ってこっちは真面目だ。
二人分でクエストの受付を済ませて港を後にした。

――孤島

「おい、何でコイツこんなでかいんだよ」
「私は知らないよ！」

向かった先、相手が予想外に強かった。
つい最近までの感覚で剣を振ると凄く重い。
向こうならこの大剣も軽々と振れたのに……。
が、それを差し引いても今回の相手は強い。
相手に合わせて俺だけでもグラシュパリエにしてきてよかった。
体格も大きいが体力も半端なく大きい。
油断すると積む。

「くっそ、砕けろ！」

前肢に向かって抜刀斬りを放つ。
刃が食い込むが、装甲を砕くには至らない。

「たぁ！」

そこにDuneが斜めから飛び掛り連続で切りかかる。
全てが同じ場所にヒットし甲殻が弾け飛んだ。
さすが、其の性能は曙光の如し！

「よしっ！」
「あ、馬鹿！」

気をよくした犬耳（ジンオウＸなので結局犬耳だった）が、
手を止めずにそのまま攻撃を出す。

ゴシャッ

「くぁｗせｄｒｆｔｇｙふじこｌｐ；！！！！！！！！１１１１！！１１！１」

腹にシールドの一撃を受けて派手に転がる。
あの野郎、人が居る時は盾で無闇に殴るなと

「あんだけ言っただｒ」
「あ、リュポンヌあぶな」

起き上がった目の前に、大きな影が見えた。
それが龍の前肢で、殴りかかられていると分かったのは当たる直前だった。

プチィッ！！

「アッーーーーーーーーーーー！！！！」
「∑高級お食事券がー！？」

【報酬が減りました】

竜斗「ハッ！？（ガバッ」

ユエルン「うわびっくりした！？ど、どうしましたか！？」

気付いたら、エスタの宿だった。
ユンさが心配げな表情でこっちを覗き込んだ。
もう朝らしく、窓からは日の光が眩しいくらいに差し込んでいた。

ユエルン「な、なんか悪い夢でも見ましたか？後、その傷は？」

額が切れて血が滲んでいた。

竜斗「あのイヌミミ、後であったらぶん殴る」

ユエルン「……へ、Duneさん居るんですか？」

折角街で休んだのに全く休まることがなかった。