ENo.854 享楽

道草話～序章～（18日目）
　
　一度始まりの街スティルフに立ち寄った享楽達は、急いで街で装備や食料を整えた後再び旅路へとついた。
　先行しているソニア達が待っているというのもあるが、そろそろソニアの「待つ」と言う忍耐も切れて置いて行かれそうな気配も漂ってきているからである。
　そうでなくても予定より大きく探索進度が遅れている現状、このままだと先行している冒険者達に大きく差をつけられてしまう。開いた差を少しでも埋めるために、短縮できるところは短縮せねばなるまい。
　街で享楽が仕入れた情報では、今まで先へ進むことを阻んでいた箇所を抜けるための「通行証」が発行されたという話もある。
　先へ進むには現探索範囲内での厄介事を全て片付けなければいけないのかと享楽は考えていたが、どうやら当てが外れたようだ。
　
　「やばいさぁ。ソニアさんも通行証の話は知っているはず･･･本格的に置いて行かれる！？」
　そう呟きながら享楽は足早に旅路を急ぐ。
　この世界に来た者達が最初に訪れる町の付近と言うこともあり、周辺に出てくる敵はそれほどの強さではない。
　しかし、だからこそそんな敵とばかり戦って時間を無為に過ごすわけには行かないと心を急かしもする。
　通行証の話もそうだが、ここの所この世界に来た者達の冒険速度が加速度的にあがっている気がするというのが、享楽を取り巻く環境で囁かれている話である。
　実際、享楽自身も肌で感じていることであり今回ソニアとの合流を急ぐ一因ともなっている。
　そんな中において、享楽達の冒険速度は決して速いと言えたものではない。冒険者全体の進行度合いをグループ分けするとなれば、手堅く先へ進んでいるグループに分類されるであろう。
　それは悪いことではないが、先頭集団から送れている分のリスクは常につきまとってくる。冒険者としてこの世界に来てる以上、新しい場所を開拓し名を残したいと思うのは冒険者の性だろう。

　ソニア達と合流したら、早急にレベルとスキルアップの必要があるかもしれないと考えながら先を急ぐ享楽であった。

　しかし、もし噂の先頭集団とやらが今の享楽の姿を見たとしたら嘲笑するものがいることだろう。
　先頭を行くものには先陣を切るだけの力ももちろん必要だが、それ以上にどんな事にも対応できるよう準備をしっかりと整えておくことが必要となる。
　装備然り、道具然りと言った具合に万全を整える。もし戦闘で負けたとしてもそれは己の力が足りなかった故であり、それ以外に負ける要因をなるべく作らないようにしているものだ。
　装備も足りず道具も足りずでは、初めて相見える敵と戦い負けた場合に何が原因で負けたのか分からなくなってしまう。
　つまりは、２度目の戦いで何に気をつければ勝てるレベルの敵なのかが分からなくなってしまうと言うことだ。
　時間に大きな猶予が在れば全体的なレベルアップを図る事で終わる話だろうが、先頭を行きたいものに余裕ある時間など無い。新天地への一番乗りがかかっているためだ。
　必要最小限の時間で踏破していくには、何をすれば最小限の力で的に打ち勝てるのかを見極める必要があるのだ。

　その点、今の享楽の姿は如何なものか。
　装備も足りぬ道具も適当･･･と、先陣を切れるとしても死出の旅への先陣だろうと行った具合の状態である。
　そんな装備ではこの先つらいぞとソニアにも言われていたのだが、結局合流するまでに装備一新は出来なかった。いや、当人を擁護するとすれば装備の計画は出来ていたが計画倒れになったと言うべきか。
　どちらにせよ、準備整っていないくせに口だけは達者な享楽であった。
　
　「良い材料が在れば俺っちにもすばらしい装備が！！」
　と、材料を手に入れる努力もせずにのたまう享楽が合流した後にソニアに殴られる様子は火を見るより明らかなのだが･･･

　しかし、人生とは妙なるものとはよく言ったもの。
　享楽の前に不思議な鉱物が現れたのはそんな時のことであったのだ。
　
　ちと旅の日記より道草をして、次回からは不思議な鉱物と享楽の話を綴ることとなる。
　さて、享楽の明日はどっちだ!?