ENo.972 ねこっぱち

「ねこっぱち、紹介しよう♪あいつは新規契約者の五号だっ。クールな滞空の覇者だぞ！」

そういって、イチジクが指差した１０メートルほど離れた建物の屋根の上に一匹の猛禽類がとまっている。
たしかに、あれはイチジクが先日契約した仲間だけど…。

「なんか遠いところにいるね。」
「えっ…………オレは、契約者の自主性を重んじる放任主義だからな。」
「うそだー。イチジクは割とくだらない用事でも呼びつけては、こき使って……」
「契約者五号は空の王者だから自由にさせるのが一番いいの！クールだから！」

そういうイチジクの口調は、こころなしか、空回っているような…世に言う、空元気ってやつ？

「へぇー。」

せっかく契約取れたのに、なぜ？

「何だその興味なさそうな返事は！オレの契約者五号は超クールだよ！鋭い目つきもクール！ワイルドな姿もクール！」
「そういえば、イチジクはワイルドな外見好きだよね。ふふふ。」
「まぁ、ワイルドでクールで強い雄はいいとおもうけど……」
「ふふふ。」

なにを隠そう、このボクも魔界時代はすごくワイルドな姿だったのだ！
それはもう誰もがびっくりして、ひれ伏すようなおそろしい姿で…。
今は、広く一般的に契約を取れるように、少女に大人気間違いなしのこんなにかわいらしい見た目だけどね！
…？
広く一般的を目指しているのに、少女に大人気の姿？
なんでだろう…。なんか違和感が…。

「すごくきもうざいから、殴ってもいいか。」
「……えっ、なんかいった？」

ボクがそう聞くと、イチジクはなにか言いかけたあと、こぶしを振り上げたまま硬直した。

「イチジク、どうしたの？」
「ど、どうもしないぞ……と言うわけで、クールな契約者五号です。」

あれ、五号こっち来たの？すごくはねをバタバタさせてるのはなぜ？かゆいの？

「こんにちわ。…うーん、確かに、身のこなしが鋭いね。」
「そうだろそうだろ、かっこいいｙ……うおっ！」

さっきからイチジクがとっても挙動不審なんだけど…。

「……えーと、その、なんだったっけ？」
「契約者五号がかっこいいってことかな？」
「あ、そうそう。かっこいいんだよ！」

イチジク、確実に忘れてたでしょ。普通、そこ忘れる？
いや、忘れてもいいけど、「空賊」がかっこいいとかかっこよくないとか関係ないし。
それよりも、昔のボクがいかにワイルドだったかのほうが大事だよね！

「悠々と大空を飛んで狙った獲物は離さない！！超絶クール！」

え、ボク、空とか飛んだっけ？あ、飛べるや。

「そうかな、照れるなぁ。」
「何故！」
「いやぁ、ボクは相当クールだなーと思って。」

自分では気がつかなかったけど、イチジクがそこまで言うなら、ボクはクールだったのだろう。

「……何だ、この勘違いは。」

え？勘違い？なんの話だろう。
まあいいや。

「ほら、ボクって結構ワイルドでクールでしょ」
「うざっ。マジで殴らせろ。」
「えっ、イヤだよ！」

イチジクの鉄槌をひらりとかわす。
あ、もしかして、こうゆうところがクールってこと？

「ねこっぱちのくせに逃げるとか小癪な……？！！」

「小癪っていうか、今日のイチジクが……あれ？イチジク？」

振り返ると、さっきまでボクのすぐ背後にいたはずのイチジクは１０メートルほど先の建物の陰からこちらを伺っている。

…え…？

「ひゃ、ひゃくPS見つけたと思ったら、ただの石かぁ！ウッカリしたなぁ、はっはっはっ！」

わざとらしいくらいの大声を張り上げるイチジクを見て、ボクはやれやれと肩をすくめる。

「そうなんだ、残念だったねー。」

なんだ、やっぱりか…。
昔っからイチジクは、意味もなく、意地をはるようなところがあって…。
まったくわけがわからないよ。
だからボクのほうから『ビクビクイチジクさん』の手を取ってあげないとね、『オヒメサマ』。

そして、のんびり毛づくろいをしている五号の横を通りすぎさま、五号にしか聞こえないように、耳打ちをした。

ばさばさばさばさああああああっ。

慌てたように柵から飛び立つ五号の羽音に驚いたイチジクが身をすくませる。

「……イチジク、本当はワイルドなイケメン苦手なの？」
ボク、イケメンではないけど、ワイルドさには自信があったんだけど…。

「そっ、そんなことないぞ！ちょっと驚いただけだしっ！」
「そうなの？」
「ワイルドなイケメン最高！」
「そんなにほめられると照れるなぁ～♪」

え、なに、この体勢。
オヒメサマは、ボクをどうしたいの？

イチジクは、ぐぐっとボクの体ごと、自分の顔に近づけて…

「……オマエ、さっき五号になんか言っただろ。何を言ったんだよ。」
「えぇと、雄同士の秘密だよー。」
「おい、ふざけんな……」

五号もかなり離れた大木へ移動したのに、なんでボクつかまれてるんだろうな。

「……あっそ、じゃ、どーでもいい！」

ふぅ。やっと解放された。

それにしても、イチジクはあんな鳥がどうして怖いんだろう。
そして、自分が怖がってることを隠したがるんだろう。バレバレなのに。
まったくわけがわからないよ。