ENo.973 九

「ねこっぱち、紹介しよう♪あいつは新規契約者の五号だっ。クールな滞空の覇者だぞ！」

１０メートルほど離れた建物の屋根の上に一匹の猛禽類がとまっているのを指差す。

「なんか遠いところにいるね。」
「えっ…………オレは、契約者の自主性を重んじる放任主義だからな。」
「うそだー。イチジクは割とくだらない用事でも呼びつけては、こき使って……」
「契約者五号は空の王者だから自由にさせるのが一番いいの！クールだから！」
「へぇー。」

どうでもいいやと言わんばかりのねこっぱちに、九は畳み掛ける。

「何だその興味なさそうな返事は！オレの契約者五号は超クールだよ！鋭い目つきもクール！ワイルドな姿もクール！」
「そういえば、イチジクはワイルドな外見好きだよね。ふふふ。」
「まぁ、ワイルドでクールで強い雄はいいとおもうけど……」
「ふふふ。」

ねこっぱちは何故だか一人で悦に入っている。
九は気色悪いものを見るように、ねこっぱちを見る。

「すごくきもうざいから、殴ってもいいか。」
「……えっ、なんかいった？」
「すごくきもうざいから、殴ってｍ……ひっ！」

以前は『空賊』と呼ばれた契約者五号が、滑空して九のもたれ掛かっていた柵にとまる。
九はこぶしを振り上げたまま硬直している。

「イチジク、どうしたの？」
「ど、どうもしないぞ……と言うわけで、クールな契約者五号です。」

こんにちわ、とねこっぱちが挨拶をすると、契約者五号もすばやく頭を下げて挨拶をする。
その間も、九は笑顔が若干こわばっている。

「うーん、確かに、身のこなしが鋭いね。」
「そうだろそうだろ、かっこいいｙ……うおっ！」

契約者五号が羽をつくろうために、ふわっと右翼を広げると九は横に飛び退る。
不審そうなねこっぱちの視線に気がついた九は空咳をする。

「……えーと、その、なんだったっけ？」
「契約者五号がかっこいいってことかな？」
「あ、そうそう。かっこいいんだよ！」

九は気を取り直して語りだす。

「悠々と大空を飛んで狙った獲物は離さない！！超絶クール！」
「そうかな、照れるなぁ。」
「何故！」
「いやぁ、ボクは相当クールだなーと思って。」
「……何だ、この勘違いは。」
「ほら、ボクって結構ワイルドでクールでしょ」
「うざっ。マジで殴らせろ。」
「えっ、イヤだよ！」

九の鉄槌をひらりとかわす。

「ねこっぱちのくせに逃げるとか小癪な……？！！」

ばっさあああ。
左の翼を広げて羽をつくろう契約者五号。

「小癪っていうか、今日のイチジクが……あれ？イチジク？」

ねこっぱちは振り返ると、九は１０メートルほど先の建物の陰からこちらを伺っている。

「ひゃ、ひゃくPS見つけたと思ったら、ただの石かぁ！ウッカリしたなぁ、はっはっはっ！」

わざとらしいくらいの大声を張り上げる九を見て、ねこっぱちはやれやれと肩をすくめる。

「そうなんだ、残念だったねー。」

ねこっぱちは適当に相槌を打つと、建物の陰からこちらの様子を伺っている九を迎えに行く。

そして、のんびり毛づくろいをしている五号の横を通りすぎさま、五号にしか聞こえないように、耳打ちをした。

ばさばさばさばさああああああっ。

慌てたように柵から飛び立つ五号の羽音に驚いた九が身をすくませる。

「……イチジク、本当はワイルドなイケメン苦手なの？」

すでに傍まで来ていたねこっぱちが、心なしか寂しそうに問う。

「そっ、そんなことないぞ！ちょっと驚いただけだしっ！」
「そうなの？」
「ワイルドなイケメン最高！」
「そんなにほめられると照れるなぁ～♪」

九はすぐにでもアッパーカットを食らわせたい衝撃を押さえて、ねこっぱちの胸倉をつかむ。

「……オマエ、さっき五号になんか言っただろ。何を言ったんだよ。」
「えぇと、雄同士の秘密だよー。」
「おい、ふざけんな……」

胸倉をつかまれたまま何故か余裕の笑みを浮かべるねこっぱち。
１００メートルほど離れた大木へ移動した何故か怯えている五号。

「……あっそ、じゃ、どーでもいい！」

九は軽く突き放すようにしてねこっぱちを解放すると、踵を返して歩き出す。

そして、何故か赤く染まった頬をぱちんと叩いてごまかした。