ENo.44 黒鷺天地

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～ブロッサム編・第四章～
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「まぁ…似たもの同士、これからも仲良くしようよ。君のことはまだまだ気になるしねぇ…、私と同じでただの人間じゃないもの」

少女は少し後ろに下がると足まわりにわずかな魔力を集中させる。
身体がふわりと大きく浮き上がれば、少女は自らの魔力で徐々に高度を上げた。

「また会いましょう…、黒鷺天地くんっ」
「えっ…、俺まだ名前を――」
「君の名前も一部じゃ知られた名前だよっ。知る人ぞ知る救世主さまだもの。それじゃあ…、またねっ」

最後にこちらへと笑顔と共に軽く手を振り、彼女は自らの魔力で飛び、その場を去っていく。残された拘束具は彼女との距離が離れると自爆を起こし、その残骸は周辺に飛び散る。そして空には魔力を使って【Good bye，cute boy】というメッセージを残していった。ご丁寧にハートマーク付き。

「ブロッサムかぁ。能力を除けば普通の女性と対して変わらな…、いや、さすがに一部含まないものも混ざってるけど」
「天地さん……」
「――ッ！？」

あっ…、そういえばユフィも一緒にここへ向かってたんだ…。
背後からぴりぴりと感じるこの感じ…、恐る恐る振り向くとユフィは黒々とした何かをオーラの如く漂わせている。たぶんさっきのブロッサムとのやりとりも全部近くで見られていた、というか確実に見られてたよコレ！
ユフィは黒々とした何かをゴゴゴゴッと漂わせながら、こちらへと一歩ずつ近づいていく。それはまさに阿修羅すら凌駕する存在のように…。

「さっきのは何なんですか！？天地さんッ！」
「いや…そんなこと言われても、てゆかあくまで攻めてきたのは相手のほうなんだけど！？」

ユフィは片手で胸倉を掴み、そのままその手を上へあげていくと軽々と俺の身体が浮く。147センチの可愛い娘が155センチの男性の胸倉を掴んで持ち上げるという光景が今おきているのだ…、俺に。
すんげぇユフィ閣下怒ってます、たぶん無理もないかもしれない。いや、まぁ…ユフィの前であんな姿を晒してしまったらそりゃあ…、うん…。ブロッサムの大胆な行為にたたせてはいけないものをたたせてしまったのもまた事実な訳です、はい。
そしてユフィはもう片方の手をぐっと握っている…、なんか結構力入ってるんですけど！？

「何たたせてるんですか、こんなものぉ！」
「ぎゃあああああああっ！？」

ユフィの拳は、やはり容赦なく飛んできた。しかしその向き先は鳩尾じゃない…、急所である。
蹴り上げられるくらいに恐ろしいほどの苦痛…、いや、それ以上の走馬灯の見える程の恐ろしい苦痛が急所に加わったのだ。幸い玉砕されてはいない…、そこはうまくギリギリで加減をしていたのだろうか。にしてもいくら加減しようがあくまで玉砕しない範囲な為、これほどの苦痛はまさに地獄の極み。あかん…、三途の川が見えかけたよ今……。

「ユ…、ユフィ閣下…、それはあかん…、それはあかんねん……」
「あんな風に彼女に接近されて、あんなはしたないことに反応なんかして、…私というものがありながらッ！」
「うん…、それはホントに悪かったよ…、悪かったから…もう簡便して……、御慈悲をください」

ここでようやく俺を持ち上げるユフィの手が降ろされ、解放される。ここで二発目を食らったらまた三途の川が見えてしまうところだった…、コーガンブレイクは男性なら一度経験すればそれはもはやトラウマになるであろう…。生まれながらぶら下げるそれこそは、男性の最大の弱点なのだ。
しかし未だにユフィはこちらをぐっと睨んでいる…、閣下こわいよ閣下。こちらもその時のユフィに思わずぶるっと震えてしまう。
…似たようなことはもう何度もあったんだけどねっ。

「はぁ……、本当に天地さんは何かしら方法があれば修正したいですよ……」
「修正って言われても何処をどういう風に修正するんだい…？」
「天地さんの浮気性をなんとかするとか、あんな攻めにも問題なく正常さを保てるようにするとか」
「後者に関しては、一切たたなくするって解釈でよろしいのかな？」

前者はまだいいものの、後者は簡便してほしい。いや、反応示さなくなったらユフィと出来なくなるよ！？
まだこの長い人生、ユフィと悔いを残さないくらい愛を育む時間とかだって欲しいし、互いにしたい時に出来ないとか涙目だからね！？

「それは確かにたたなくなったら私も…、って何言わせるんですかッ！？とにかく後者はそういう意味じゃないですっ！」
「あははは…、とりあえずターゲットはもう片付いちゃったみたいだけどね。まぁ…、やり方にしてはあまりいいとは思えないけど……」
「ですねぇ……」

ブロッサムが戦いの後に残していったものは、無惨な姿で成り果てた異型の獣の死骸だった。
頑丈な甲羅だけが残り、その中の肉体は彼女の強力な魔力によって破裂し、完全に焼けたミンチとなって周囲に散らばっている。異型の獣独特の血肉の異臭も漂い、黒い獣の血もまたあちこちに飛び散っていた。その光景は、見るものによっては吐き気を起こすほどである。
フォーススーツ部隊にとっても、彼女の残したこの酷い光景はとても平然と見ていられるようなものではなかった…。故に彼らは、彼女のやり方をとても認められるようなものではないと非難している。

「この先、私達は彼女と相見えることになるのでしょうか…。もしそんなことになれば……」
「出来ることなら、それだけは避けたい気持ちなのは俺も同じだよ…。彼女ほどの力があれば、おそらく複数人が相手だろうと手がつけられないかもしれない……」
「違法な施設の人達は…、恐ろしいものを生み出していきましたね……」
「そうだねぇ…、だからこそそれによる大きな被害は避けなければならない。今はまだ、彼女がこちらの敵として牙を向ける様子はないみたいだけど……、その時が来たら…何があっても止めなきゃならない」

ブロッサムも、もとは一人の普通の人間である。出来ることなら彼女を殺さずに、彼女が人を殺さずに済む方法があれば……。
俺もまだ望みは捨てたくはない…、何か方法を見つけられればこちらとしてもありがたい限りである。幸いフォーススーツ部隊も、その為の研究も行っている。
もうあの頃のようなことは繰り返したくない…、その思いが彼らにはあったのだ。もうあの頃のような悲しみを二度と背負わぬようにと……。
しかしもしその方法が見つからなければ、その時は……やるしかないのか。
出来ることならこの願いを叶えて欲しい…、ブロッサムを殺さずに救う方法があれば…。まだその時ではないが、もしその時が来たのであれば…、どうか力を貸して欲しい。
そう願えば少しばかりか、あるいは気のせいか、タキオンオブアズールの光は鼓動していたようにも感じた…。

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研究施設に戻ってきたブロッサムはＥ型の獣の倒し方に関して研究員の一人から怒られるも、その代表らしき人物からはほめられている様子。
また彼女の戦闘は既に投資者達のもとにも映像が送られ、確かな評価を確立していた。獣の潜伏する戦場は、まさにブロッサムのPRにはもってこいの場所であり、直接戦闘を行うことで彼女の力強さを投資者達に証明し、生体兵器としての価値を引き立てる。

「…よし、そこまで。前回よりも順調にタイムがはやくなっている。その調子で、明日もがんばってくれ」

既にブロッサムの細胞を使って作り出された二人の新たな生体兵器…、彼女達は専用のカリキュラムを受けている。彼女と違い、人間の精気の摂取による強化は行えないものの、与えられたカリキュラムをこなしていくことですぐにめきめきと力を上げていった。
一人は黄色い髪の背の高い少女で、名前はバンヴィーニ。普段バンと呼ばれる彼女はその身長に合わぬ身体の軽さが特徴で、魔力を使った飛行による速度もトップクラスである。
ヒットアンドアウェイを得意とする彼女の戦い方はまさに蝶のように舞い蜂のように刺すという言葉が似合い、トレーニングを記録した映像を確認した投資者達からの評価は高い。
もう一人は、水色の髪色の背の低い少女で、名前はウルスス。普段ウルとよばれる彼女は魔力がきわめて小さいものの、その小さな身体からは信じられないほどの筋力を持ち、魔力を使わずとも強力な格闘攻撃で敵を確実に仕留めてしまう。
また、少ない魔力で正面に強力な魔力障壁をはる事が出来、RPG-7の弾すら容易に防ぐ強固な障壁は防御範囲が限られるものの、決闘着の通常の防御力を遥かに凌駕する。
二人はそれぞれ別々のカリキュラムを与えられており、時には互いで組み手をすることもある。
将来的にはブロッサムと同じく広い範囲でPRを行うつもりである。既にブロッサムの細胞から作られた新型細胞によってすぐにでも生体兵器を作り出せる環境が整っており、はやくて三日で成長させることが出来る上に、最終調整も比較的容易である。

「ねぇ…、もうあたしらだいぶ力もついたんだしｍそろそろ現場で暴れたいんだけどまだ駄目なのかい？」
「駄目ですよバン、私達はまだ生まれたばかりの存在。万全な状態まで徹底的に己を磨き上げてからでなければ、下手をやらかしては怪我をするだけですよ」
「なんだいウル…、あんたもだいぶ力はついてんだ。そろそろ外に出たいという気持ちの一つや二つは持ってるんじゃないかい？」
「少なくとも、万全な状態に仕上がるまではそのような気持ちは抑えていますので」
「欲の小さい女だねぇ……」

二人が話し合っていると、そこに研究員の一人がドリンクを持ってくる。ドリンクには一定量のナノマシンが含まれており、まだ生まれたばかりの彼女たちの細胞は定期的にナノマシンを与え続けなければならず、今の肉体のままでは攻撃を被弾した際、大きな傷を負いやすい。今の彼女達の肉体は確かに優れてはいるものの、彼女達の皮膚は未だ赤子のようにデリケートである。
そのためこうしたカリキュラムをこなしつつ定期的にナノマシン摂取を行うことで肉体強度を外見年齢相当までに強化していく。現在はあと十回近くのカリキュラムとナノマシン摂取を残しており、それを全て終えるブロッサムと共に獣の出現場所へと向かうことが許される。

「ハロー、二人とも調子はどう？」
「…あんたはいいよねぇ、あたしらと違って細胞打たれてすぐ戦場じゃないのさ」
「まぁ、あたしは選ばれた人間だからねっ？それとあんたじゃなくて、お母さんとでも呼んでくれるかしら？なんてねっ」
「うわっ、うっぜぇ！」
「相変わらずのようですね、ブロッサム。で、随分とご機嫌のようですが…何かあったのですか？」
「んっふっふ～、まぁ色々とねっ♪それじゃあ諸君、カリキュラムがんばりたまえぃ」
「コノヤロ、冷やかしにきただけかよっ！」

ブロッサムは気分上々で彼女達にドヤ顔を見せてその場を後にする。
バンは次のカリキュラムをよこせと研究員を呼び、ウルはそんな彼女に少々呆れ気味であった。