ENo.2100 姫百合神

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遠き山に日は落ちて

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話をしよう。
凛と紬の母親の話だ。

16代目黒百合当主。
母である雪椿のように完璧な人ではなく、
娘である凛や紬のように奔放とも言えない、

ズレた人。

というべき些かやり過ぎた天然ぶりを発揮した人物である。
彼女といえばまるで花が咲いたかのようにコロコロと笑い、
何事であっても笑顔でかわしてしまうという癖がある。

なにをやっても応えず、話掛けても横道に逸れてしまう。
しかしやるべきことに対しては母親譲りの完璧さを見せる。

彼女の感情に負を見たものはおらず、唯一感情が陰る時ですら
笑顔が微笑に変わると言われるだけで本当に幸せそうな人なのだ。

彼女の不可侵さは笑顔ゆえでもあるし、清廉潔白さにもある。
嘘をつかず、正しいことしか言わない。
だから、関わりにくく関わっても決して望む方向に話が進まない。
ズレた人なのだ。

彼女は夫…凛と紬の父親に周りが呆れるほど惚れ抜いており、
結婚後は常に二人でいる姿しか見られたことがない。
その夫は、取り得のない頼まれたら断れない御人好しな人だけな人なのだ。

夫の血縁は黒百合名門六家の白百合に連なっている。
黒百合ではあまり男性の血縁関係は重視されないが。

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「よーし、おやつは持ったかー」

「水筒は用意したかー」

「お弁当はこちらです」

「遠足か」

…
……
………

「というわけで、今日は遊びに出かけるのだわ」

「いや、場面転換が入ったのに話が変わってないぞ」

「そういうわけで、とにかく遊びにいくから」

「駄目に決まっているだろう」

「どうしてもですか？」

「どうしてもだ」

「仕方ない。じゃあ修行しに行こう」

「採用」

「なにも変わってないだろう」

アンジニティの街を出て山岳部。
以前はこちら側ではなく北側から回ったが、あの時は一度は勝利した。
…二度目は負けて街に戻ることになったが。

「ここが危険なのはわかっているだろう。なぜ別行動を取ろうとする」

「危険はありますが、多分大丈夫だからです」

「…いや、無理じゃないのか」

「平気平気。今なら肉体能力だけで多分何とかなるから」

「マナがなかろうとなんだろうと勝てるのさねっ」

「それが出来れば私も苦労していないのだが」

魔力で肉体を強化する。
気で肉体を強化する。

武術や魔術に関わるものならそれなりに行っていることだる
しかし肉体をマナで構成しているカノはともかく、凛と紬はマナをほとんど失っている。
多少戻ってきているとはいえ探索はともかく、戦いを行うほどの力はないはず。

「大丈夫なのさねっ。外界の気を取り込む技を習ったのだわっ」

「そんな達人の極致みたいなことが出来る人が居たのか？」

「そこに」

「うむ」

「チェンジで」

…
……
………

「とりあえず言っておこう」

「怪しい人にはついていくな」

「御先祖に向かって怪しいとはこれ如何に」

「勝手に凛の身体を使うな。それと、転生はまだ先の筈だろう」

「その通り。該当時間でのワシの転生はまだじゃ。ゆえにここに居るワシは未来から来たのじゃ」

「…怪しい」

「一応補足しますと、前に言っていた呪禁歌の本がそのうち見つかるという話と同じ理屈です」

「私たちの世界とアンジニティの時間の流れが違うため、この時間と交差する未来の私たちがここに送るだろうという話か」

「いかにも。まあそのような話じゃからおいそれと顔を出せはしないのじゃがな」

「だったらとりあえず今日は帰ってくれ。凛に話がある」

「なんだばさっ？」

「…この変わり身の早さは…雪椿と凛はやはり似てるな」

…
……
………

「詰まるところ、内功を高めるにも限度があるから外界の気…外功を利用する技を教えてもらったのだわっ」

「言っておくが、内功と違って自分と波長の違う気でありマナを扱うのはデリケートなコントロールが必要だ。習った程度では止めておいたほうが無難だろう」

「シン姉さんはよく失敗してますね。氣吼で外氣を少し取り入れ内功と混ぜて練り上げるのを」

「あれってそうだったんだ。どこから作り出してるのかと思ってたけど」

「質も型も違うからな、少量取り入れて活性化させてるだけさ」

「悪用されても困る技なのでね、達人の中でも扱えるのは一握りしかいない程だ」

「そこはさすが天奏ってことね」

「そういうわけだから、習ったくらいで実戦に使えると思わないようにな」

「凛さんとつむちゃんなら普通に扱いそうで、それはそれで怖いですけど」

アンジニティのマナは扱いづらいとつい最近まで言っていたと思ったらこれだ。
のんきな老人の入れ知恵で苦労させられたくはないものだな…

「とりあえず遠足は中止だ」

「ちっ」

「仕方ない…」

「そうなるとは思ってました」

今日は、無事に山を抜けられるといい…

○

闘技

「終わってしまったな。四勝というところか」

「８戦目があればどうなったか知りたかったけど、勝ち越してるからまだ？」

「三勝からボーナスが下がるからちょうど良い勝数なのさねっ」

「でもできればもっと勝ちたかったですね…」

振り返り

「返す返すも判定がな…」

「勝てそうな戦いが判定に持ち込まれて負けてますからね」

「運というにはあまりにも悲しい事例が多すぎる」

「火力が足りないというのは事実ではある。判定まで行ってしまっているしな」

「次からは上位も互い持ち合ったりしますから30ターンで決着がつきやすくなるかもしれませんね」

「勝ちでも負けでもその方がお互いすっきりするだろうしな」

「あのハトの判定に泣かされた人は少なくないだうけど、それで喜んだ人もいそうね」

「余裕で勝ちたいものだね」

◇

No.017

終了　　

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