ENo.2766 盛岡鈴菜

The eighteen day
This one
is
who lost property?

「これが噂のアップルさんかぁ……」
　森の中を進んでいったその先に、街で退治依頼の出ている店先から逃げ出したリンゴ、通称アップルさんが盛岡鈴菜の目の前に飛び込んできた。
「私達みたいなのに退治依頼が出る訳だよね……。なんと無く判った」
　醜悪とも気味の悪くとも言える、微妙に判断の難しいその姿に思わず八月一日未来がため息をついた。
「まぁ、何にしてもこいつらをなんとかせん事にはどうしようも無い事には変わらんて……」
　ユーキ・ヒロは、なにやら怪しげなポージングをしているアップルさんを睨み付けながら手にした剣を構える。
「それじゃとっととこの依頼こなしてしまおうか」
　そう言いながら鈴菜達は身構えたのだった。
「それじゃ行くよ、来いっ！？ガーディアンアイドル！！」
　自らの周りに、魔力で作り出した魔導書を浮かべ未来が自らの使い魔を呼び出す。
「私の歌を聴いてね」
　未来の召喚を皮切りにしてそれぞれが戦うための準備を整え、鈴菜がその使い魔に向かってエンチャントの歌を奏でる。
「準備は整ったようじゃの」
　ヒロは言いながら鈴菜と未来の盾となる為にアップルさん達との間に立ち塞ががったのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　そしてそのアップルさん達との激闘からしばらくたった後、鈴菜は唐突に呟いた
「……ここどこ？」
　その鈴菜の呟きに気が付いた未来はふと足を止める。
　アップルさん達を無事退治した後、一度スティルフの街に戻る事になり進んでいたハズなのだが、気が付くと一緒に行動していたはずの仲間達がいなくなっている事に気が付いた。
「ねぇ鈴ちゃん、シアちゃん達はどこにいるんだろう？」
　未来のその言葉に鈴菜が驚いた声をあげる。
「ひょっとして鈴ちゃんまた……」
　未来は鈴菜の悪い意味の特技になりつつある迷子になった状況なのではないかと、不安そうな声をあげた。
「どうやら、それで間違い無いようじゃの……」
　地図と今いる場所から見える地形を照らし合わせながらヒロが唸る。
「……ま、まさかぁ……」
　鈴菜は慌ててヒロの持っている地図を慌てて奪い取ると、地形を照らし合わせる。
「…………」
　そのヒロの言葉が真実であると、自らの目で確認すると鈴菜はがくりとうなだれた。
「また鈴ちゃんの病気がはじまちゃったのか……」
　未来は思わず今の事態が自分の想像した物である事に頭を抱えた。
「ほ、ほら、ここからなら街に戻るのもそう遠い訳じゃ無いし大丈夫だって」
　慌てて地図を指差しながらそう言った鈴菜に再び未来はため息をついたのだった。
　そんな中に鈴菜はふと足元に光る物を見つけた。
「あれ？これはなんだろう……？」
　そう言って身体を屈めてその落ちていた物を鈴菜は手にする。
「何々？どうしたの？」
　未来は急に鈴菜が取った行動を不思議に思って手にした物を覗き込む。
「あれ？それバレッタだね」
　覗き込んだ先にはシックな丁寧に薔薇の透かし彫りの細工の施されたバレッタがあった。
「そうみたいだね、なんか高そうな物なのになんでこんな所に落ちていたんだろう？」
　不思議そうに鈴菜は周囲を伺うがその持ち主らしき人物はどこにもいなかった。
「うーん、誰のなんだろう？見た感じ高そうだし、それにとても大事に扱われていたみたい」
「そうだね、丁寧に使っていたんだろうなって感じは見えるよね」
　鈴菜も未来も女の子でありアクセサリーを作る事を趣味のようにしている為に、見る目は確かであった。
「とりあえずこんな所に放置するのは忍びないよね、街に行けば確率は低いけど持ち主が見つかるかもしれないし」
「そうだね。私もそう思う」
　鈴菜と未来はそう言って頷きあった。
「ふむ、それじゃそろそろ行くとするかの」
　地図を見て行く方向を考えていたヒロが地図をしまって二人の事を促した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
　鈴菜はバレッタを鞄にしまって歩き出したヒロの事を慌てて追いかけたのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　スティルフの街近辺まで戻ってきた鈴菜はここで落ち合う予定だったアリシア・ウール達を待っている間に先程拾ったバレッタを荷物から取り出してまじまじと見つめた。
「コレ、どうやって持ち主見つけよう？」
　どうしたらいいのか判らずに未来とヒロに問いかける。
「そう言われてもここにそれの持ち主がいるとはかぎらんしの……」
　ヒロも妙案が出ずに髭をしごきながら唸る。
「でもいないとも限らないというのも確かだよね」
　未来がヒロの言葉を否定とも取れる事を言い出す。
「そうなんだよね……、ここにあるって事を目に付くようにすれば良いんだと思うけど……」
　腕組みしながらどうした物かと鈴菜は悩むが、ふと未来のかぶっている帽子に目が止まる。
「あ、そうか」
　唐突に手を叩いた鈴菜を不思議そうに未来は見返した。
「私が髪につけて、ここにあるって事を示せば良いんだ」
「あ、なる程、それはいいかもね、鈴ちゃんならきっと似合うと思うし変じゃないよ」
　それじゃ早速……」
　そう言って髪につけようとしたその時であった。
「……その髪飾りどうしたの？」
　唐突に鈴菜に掛けられた声があった。
「声のした方をみるとお腹を抑えた白い髪の少女が鈴菜達の方を見つめていた。
「髪飾りってこれ？」
　鈴菜は髪にとめるのをやめて髪飾りを指差しながら聞いた。
　その問いに対して少女はこくりと頷いた。
「どうしたって言うか、向こうの草原で拾ったんだけど……、ひょっとしてこれあなたのバレッタ？」
「……わからない……。でも似てる」
「本当？良かったぁ」
　喜ぶ鈴菜を見て、話が繋がらない少女は不思議そうに小首をかしげる。
「えっと今このバレッタの持ち主を捜そうと思って、髪につけていれば見て貰えるかな？って話していた所だったのよ」
　鈴菜はそう言ってバレッタを少女に向かって差し出した。
「どうぞ、あなたの物か確かめてよ」
　微笑みながら手渡されたバレッタを少女は受け取るとまじまじと見つめた。
「……やっぱりこれ私の……、大事な物だったの。ありがとう……」
　そう言って少女はバレッタを受け取るが、急にそこで地面に膝をついた。
「ど、どうしたの？」
　急な少女の変化に慌てて鈴菜は慌てた。
「……お腹すいた……」
　その少女の言葉に、思わず一斉に笑い声が上がったのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　気が付くと少女を囲んで、皆で昼食を取る事になっていた。
「そういえばあなたの名前は？私は盛岡鈴菜、みんなは鈴菜って呼んでるよ」
　鈴菜が自己紹介をすると続いて、未来が口を開く。
「私は未来だよ、八月一日未来、それでこっちのごついおじさんがヒロさん」
　ヒロの事を指差しながら未来も自らの名前を名乗る。
「……私は……シフィル」
　余り大きくない声でぼつぼつとシフィルも自らの名前を名乗る。
「シフィルちゃんか、可愛い名前だね」
　素直な感想を述べた鈴菜の言葉にシフィルは思わず照れてすっと視線を落とした。
「お腹がすいてるんだよね？コレ食べてよ」
　そうこうする間に未来が自らの荷物から自分の作った携帯食を取り出した。
「……いいの？」
　シフィルの問いに未来は笑顔で頷いた。
「未来ちゃんの料理はね、見た目はあれな事も多いけど、味は保証済みだよ」
「ちょっと鈴ちゃん見た目はあれって何よ、あれって」
「だって、よく『形容しがたい何か』になってくるのは本当じゃない」
　鈴菜のその言葉にヒロが感慨深げにうんうんと黙って頷いた。
「むぅ」
　未来はその二人の態度に思わず頬を膨らませてむくれるのだった。
　シフィルはどうした物かと渡された料理を手にしたまま三人を見つめていたのだった。
　そんなシフィルの態度に気が付いた鈴菜は慌てて言った。
「あ、こっちの事は気にしないでいいよ。それはシフィルちゃんにあげたんだから、食べて良いんだよ」
「そうそう遠慮しないで食べてよ」
　鈴菜と未来は代わる代わるの言葉にシフィルは小さく笑みを浮かべた。
「……ありがとう」
　シフィルは包みを解くとその料理を口にした。
　自分の料理の味がどう受け取られるのか気になる未来はその様子をじっと見ていた。
「ど、どうかな？味の方は……」
「……美味しい……」
　その一言で未来はどっと脱力した。
「良かったぁ……」
「だから味の方は保証済みだって言ったじゃない、見た目は置いておいて」
　未来のその様子にすかさず鈴菜がつっこみを入れる。
「だから見た目も独創的って言ってよね」
　未来のその返しにどっとその場が笑いの渦に巻き込まれたのだった。

　§§§§§§§§§§§§§§§§

　シフィルと別れると鈴菜達は本来の目的であるアリシア達との合流を果たしていた。
「まったくもう、鈴菜はまたすぐどっか行っちゃうその癖、本当に何とかした方がいいよ？」
　先日の自分の事は棚に上げておいてエルシア・アルトシアが開口一番そう言った。
「非論理的ではありますがすが、どうやら鈴菜の迷子は伝染するようですから」
　認めたくはないが、現実に目の前で起きている事を受け止めた場合そう結論づけるしかない事態に、葛藤を珍しく抱えながらY.A.T.A.H.はそう言った。
「でもこうやって、また無事に合流できたんだから良いじゃない」
　アリシアのその言葉が全てを物語っていた。
「そうだよ。こうやって無事合流できたんだし、今度こそ最初の目的だった、次の街へ向かえばいいんだよ」
　鈴菜のその言葉に、一同の白い視線が向けられた。
「鈴ちゃん、何でこういう事態になったのか、判ってるよね？」
　流石に言わずにはおれなかった未来がつっこみを入れる。
「そうです、鈴菜さんはもう一度、ちゃんと考えるべきだと思います」
　未来に続きアリシアも合いの手を入れる。
「そうだの、そうやってうやむやにするのは良くないぞ？」
　ヒロの言葉が止めとなって鈴菜に突き刺さる。
　がくりと敗北者のように鈴菜が地面に手を付いてうなだれた。
「でもそうやって前向きになろうとするのは鈴菜殿の良い点ではあるからな」
　そのヒロの言葉に皆が頷いた。
「それじゃ、ここでこうしてても仕方無いし、まずは街で食料の調達と行こうか」
　シアのその言葉で一斉に動き始めたのだった。

To Be continued…….

登場キャラクター
ENo.883 シフィル
ENo.1155 アリシア・ウール
ENo.1684 エルシア=アルトシア
ENo.1891 ユーキ・ヒロ
ENo.2274 八月一日　未来
ENo.2704 Y.A.T.A.H.
ENo.2766 盛岡鈴菜

今回シフィルさんをお借りました、感謝。